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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)1615号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人向江璋悦、同安西義明の上告趣意第一点について。

所論は、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。(なお所論はあらゆる面から事実誤認を主張するけれども、記録を精査してみると、原審の事実認定は相当であって誤とは認められない。所論はひっきょう原審の認定と異なる独自の事実を主張するにすぎない。)

同第二点について。

所論は、本件金員の交付は、参議院議員候補者高橋統閭がその所属政党である改進党の千葉県支部連合会に対してなした寄附であるから、公職選挙法一九九条但書により何等罪とならないものであり従ってこれが取次をなした被告人の所為は罪とならないのに、原判決がこれを有罪としたのは同条の解釈を誤り、ひいて結社の自由を保障する憲法二一条の解釈を誤ったものであると主張する。しかしながら、原判決は、第一審判決が本件金員を所論のような寄附金であるとは認めず、被告人が参議院議員候補者高橋統閭と共謀し、同候補者に当選を得しめる目的をもって、その選挙区内の選挙運動者及び選挙人に供与させる投票買収等の資金として同候補者の選挙運動者山崎恒等に交付したものであるとの認定を相当であると判断したのであって、この事実認定に誤はない。従って所論違憲の主張はその前提たる事実を欠き、上告適法の理由とならない。

同第三点について。

所論は、判例違反を主張するけれども、所論引用の判例はいずれも、選挙に際し投票買収を共謀した者の間において買収資金を授受した事案に関するものであって、本件に適切でない。そして本件においては、原判決は、被告人と本件金員の受交付者である選挙運動者山崎恒、同脇田三千雄との間に、投票買収の共謀があったものとは認定していないのであってその認定は記録に徴し相当であるから、所論判例違反の主張は、結局その前提を欠くことに帰し上告適法の理由とならない。

同第四点について。

所論は、刑訴三九二条は同四一一条と共に憲法一三条及び同七六条三項に違反し、無効の規定であり、従ってこの無効の規定に則り控訴趣意書に包含された事項のみを調査して控訴を棄却した原判決は違法であり破棄を免れないというにある。しかしながら、上訴審の組織権限をいかに定めるかは、立法上の政策問題であって憲法上の問題ではないことは、すでに当裁判所の判例とするところである。従って所論はすべて理由がない。(昭和二二年(れ)第五六号、同二三年二月六日大法廷判決集二巻二号二三頁。昭和二二年(れ)第四三号、同二三年三月一〇日大法廷判決集二巻三号一七五頁参照)。

同第五点について。

所論は、量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意第一点について。

所論は、判例違反を主張するけれども、その採用できないことは、同趣旨に帰する弁護人向江璋悦、同安西義明の上告趣意第三点に説示したとおりである。(なお所論の引用する判例中、向江、安西両弁護人の論旨に引用されていない大審院判例(昭和一二年(れ)第七四五号)は、選挙の投票日に投票することをすすめた事案に関するものであって本件に全く当らない)。

同第二点について。

所論は、憲法三九条違反を主張するけれども、その実質は本件起訴の仕方、審理の仕方を非難するにすぎず、かつ所論のごときは、原審において控訴趣意として主張されずまた原審の判断を経ていない事項であるから適法な上告理由とは認められない。

同第三点について。

所論は法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論は原判決が第一審判決の証拠の標目中、被告人の検察官に対する同年六月一六日附供述調書の謄本とあるのは、被告人の司法警察員に対する同日附供述調書の謄本の誤記と認めると判示したのに対し、そのような日附の調書の謄本は存在しないからこれは恐らく同年五月一六日附の誤記と思われると指摘し、原審の記録調査が慎重を欠くと非難するが、原審がさらに日附を誤記したことは所論のとおりであって粗漏たるを免れないが、それだからといって直ちに原審が供述調書の内容の検討を十分にしなかったということはできない。)

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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